「よみかた」の怪

以前のブログが中断した所以は、おそらくこのネタを投稿しようとして、なぜかエラーとなってできず、途端億劫になり諦めたが為と思うので、その再掲から始める。

もう10年以上前になるだろうか、「キラキラネーム」がネットスラングで「DQNネーム」と呼ばれていたころ、世に言う「悪魔ちゃん命名騒動」に端を発して、一時新生児の命名に関する議論がされていた。

wikiを参照するに[1]、命名に使用した漢字の選別が問題となった事案だが、よみがなについては何ら問題とされていなかった。

考察するに、新生児の命名には、使用した文字、そしてよみがなと2つの要素が存在する。

前者は、戸籍法施行規則(昭和22年12月29日司法省令第94号。以下「施則」という。)60条による文字の制限及びその文字の組み合わせが倫理的に許容され得るかどうか、後者は実務的に出生届の受付係官が命名に使用した文字に紐付く読みを許容できるかどうか、という問題である。

すなわち、「太郎」などと命名する際の文字の制限は法令的、倫理的に存在するが、その文字に紐付く「たろう」との読みには法令的な制限が存在しない。

以下それぞれ敷衍する。

1.命名文字

戸籍法及び上掲の施則により、命名に使用できる文字には制限が付されている。
なお、平仮名または片仮名には、通達により長音(ー)や繰り返し文字(々やゝ等々)が含まれる。

戸籍法(昭和二十二年十二月二十二日法律第二百二十四号)

第五十条  子の名には、常用平易な文字を用いなければならない。
 常用平易な文字の範囲は、法務省令でこれを定める。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO224.html参照

 

戸籍法施行規則(昭和二十二年十二月二十九日司法省令第九十四号)

第六十条  戸籍法第五十条第二項 の常用平易な文字は、次に掲げるものとする。
一  常用漢字表(平成二十二年内閣告示第二号)に掲げる漢字(括弧書きが添えられているものについては、括弧の外のものに限る。)
二  別表第二に掲げる漢字
三  片仮名又は平仮名(変体仮名を除く。)

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22F00501000094.html参照

2.命名文字のよみがな

施則附録第十一号様式(出生の届書)の項目として(「よみかた」)規定がされているのみで、戸籍法、住民基本台帳法(昭和42年7月25日法律第81号)及びその施行に係る政令、府省令のいずれにも定めがない。つまり、戸籍の記載事項でもなければ(様式にもよみかたの項目はない)、住民票の記載事項でもなく、住民票には戸籍のように様式が指定されていないから、あくまで参考情報として届け出る程度のものという扱い。

――まで、いずれも法務省及び総務省の各担当者に電話で照会しての結論である。

最近かつての「DQNネーム」が「キラキラネーム」と呼ばれるようになってから、読み方も問題視され始めたが、これは上述のように出生届を受け付けた係官の倫理観以外に何らバイアスが掛からないことが大きな要因であると思われる。とりわけ、都市部では大量の市民、区民を捌く必要上そうした倫理観もとい正義感を発揮することは求められていないから、命名文字の制限をクリアしていれば「キラキラネーム」の類はスルーされる。比較的市民を捌きやすい農村部とは真逆である。

そもそも、斯様な調査を行ったきっかけは、日頃聴いているラジオのパーソナリティが、
「親は読みに長音を含む名前で届け出たが、窓口で母音に直すよう指導されたらしい」
――と発言していたのを耳にしたことだった。さて、その根拠はなんだろうかと。

まずは、文字制限における長音の扱いから調べ始め、「よみかた」の戸籍及び住民票上の扱いを追ってから、各省の担当者に電話で問い合わせた。
ついで、統計的に都市部及び、特定地方の農村部から適当な市町村を抽出して、各市役所、町村役場の住民課へ当該市町村における「よみかた」の扱いと、長音を制限している場合はその法令上の根拠を問い合わせた。
調査した10程度の市町村のうち、農村部に位置する1つの市町村以外は、そもそも制限がないか、従来制限をしていたが法令上の根拠がないため撤回する旨の回答だった。正確なところは、1,718すべての市町村(平成26年4月現在)を調査しなければ分からないが、都市部ではそもそも制限がないが、農村部では慣例的に制限がされているとの傾向が認められた。

公知の事実であるが、戸籍関係の届出は、全国どの市町村でもすることができる。(母子手帳の交付などは受けられないから手間ではあるが。)
上掲の頑なな市町村も、隣接する市町村が係る制限を付さないで受け付けをしているのであるから、意固地なだけで意味は無い。

実家の友人にも「母音を抜いた読みがなで届出たら、直すよう指導されたらしい」という者がいるが、住民票に関して名前のふりがなを変更したい、と届出れば即座に変更できるので、暇を見つけて手続きをするよう勧めておいた。

こうした話は枚挙に暇がなく、国民生活に密接であるだけ問題も起きやすい。
私自身は、「キラキラネーム」否定論者だが、実父のように傍から見て何ら支障なさそうでも、意外とコンプレックスを抱えている(普通に読めるが、その読みに幅が出る)例もあるので、要は当人次第、新生児が成長して社会に出たとき、その名前を苦にしなければ、如何に周囲が「キラキラネーム」と騒ごうが問題にはならない。

結婚など程遠い身の上だが、もし親戚中から新生児の名前を訊かれたとき、眉をひそめられるような状況にはならないようにしたい。

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